震災のあと片づけや復興もそれなりに進み、陸上では、震災の爪あとを直接目にする場所は少なくなりました。しかし海の中は違います。目立つ物は片づけられていても、日常で使っていたような細かいものたちは、あの日、海の中に引きずり込まれたまま、今も時間が止まってしまっているかのように、海底でそのまま眠り続けています。
石巻の渡波で生まれ育った私の身となり骨となってくれたホヤやウニが、海底に沈んだままの茶碗や靴やオモチャを、まるで寄り添うように静かに自然に取り込もうとしている光景は、悲しくもあり、それでいてちょっと温かくも感じました。
どんな出来事があっても、時間が経過し、どんどん前に進んでいく世界。そんな世界と隣り合わせの海の中で、まるでタイムトリップしたかのような、束の間の望郷と哀惜の時間を過ごしました。
自然写真家・高砂淳二
撮影場所/女川・竹の浦、
撮影協力/宮城ダイビングサービス ハイブリッジ
| プロフィール
高砂淳二プロフィ-ル
たかさご じゅんじ。自然写真家。1962年、宮城県石巻市渡波生まれ。
熱帯から極地まで世界中の国々を訪れ、海中、生き物、虹、風景、星空など、地球全体をフィールドに、自然の繋がり、水や生命の循環、人と自然の関わり合いなどをテーマに撮影活動を行っている。
著書は、「PLANET of WATER」(National Geographic),「night rainbow」「LIGHT on LIFE」「free」「夜の虹の向こうへ」(小学館)、「Dear Earth」(Pie International),「光と虹と神話」(山と渓谷社)ほか多数。ザルツブルグ博物館、東京ミッドタウンフジフイルムスクエア、渋谷パルコ、阪急百貨店ほかで写真展も多数開催。
TBS「情熱大陸」、日本テレビ「未来シアター」をはじめ、テレビ、ラジオ、雑誌等のメディアや講演会などで、自然の大切さ、自然と人間の関係性、人間の地球上での役割などを幅広く伝え続けている。
みやぎ絆大使。