「海底に沈んだままの3.11」

震災のあと片づけや復興もそれなりに進み、陸上では、震災の爪あとを直接目にする場所は少なくなりました。しかし海の中は違います。目立つ物は片づけられていても、日常で使っていたような細かいものたちは、あの日、海の中に引きずり込まれたまま、今も時間が止まってしまっているかのように、海底でそのまま眠り続けています。
石巻の渡波で生まれ育った私の身となり骨となってくれたホヤやウニが、海底に沈んだままの茶碗や靴やオモチャを、まるで寄り添うように静かに自然に取り込もうとしている光景は、悲しくもあり、それでいてちょっと温かくも感じました。
 どんな出来事があっても、時間が経過し、どんどん前に進んでいく世界。そんな世界と隣り合わせの海の中で、まるでタイムトリップしたかのような、束の間の望郷と哀惜の時間を過ごしました。

自然写真家・高砂淳二

撮影場所/女川・竹の浦、
撮影協力/宮城ダイビングサービス ハイブリッジ
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